雅歌の森を歩く――没薬の束
更新日:3 日前
雅歌1章13節
聖書の中に、「乳房」ということばがある。
雅歌1章13節で、そのことばに出会う。
没薬の束、私の愛する人は、私にとって。
私の乳房の間で、夜を過ごす。
13節は、「没薬の束」から始まる。
ハンモール הַמֹּר 冠詞・没薬 | ツェロール צְרוֹר 束 |
続いて、「私の愛する人は、私にとって」。
リー לִי 私にとって | ドーディー דּוֹדִי 私の愛する人 |
そして、ことばは「乳房」へ進む。
ヤーリーン יָלִין 夜を過ごす | シャーダイ שָׁדַי 私の乳房 | ベーン בֵּין 〜の間 |
「私の乳房の間で」。
語っているのは、「私」。
「乳房」は、語っている「私」自身のからだ。
夜を過ごすのは、誰だろう。
ヤーリーンは、三人称・男性・単数の動詞。
この節で、男性・単数のことばは二つ。
ツェロール(束)と、ドーディー(私の愛する人)。
形の上では、どちらとも読める。
訳も、ここで分かれる。
新改訳2017は「私の乳房の間に宿る没薬の袋」。
新共同訳は「わたしの乳房のあいだで夜を過ごします」。
没薬の袋が、夜を過ごすのか。
愛する人が、夜を過ごすのか。
どちらであっても、その場所は「私の乳房の間」と名指されている。
訳語の「乳房」からは、見えないことがある。
「私の乳房」は、ヘブル語で「シャーダイ」。
シャーダイ שָׁדַי 私の乳房 |
同じ三文字で書かれることばが、もう一つある。
神の名の一つ、「シャッダイ(全能者)」。
シャッダイ שַׁדַּי 全能者 |
違うのは、あとから付けられた母音記号と、真ん中の文字の点だけ。
語の成り立ちが同じかどうかは、わからない。
けれど、創世記49章25節では、全能者の祝福の中に、「乳房と胎の祝福」が置かれている。
ヴァーラーハム וָרָחַם そして・胎 | シャーダイム שָׁדַיִם 乳房 | ビルコート בִּרְכֹת 〜の祝福 |
全能者と、乳房と。
同じ文字で書かれた二つのことばが、一つの節の中に並んで置かれている。
「乳房」は、雅歌の中で八回語られる。
そのうち、全能者と同じ三文字で書かれるのは、三か所。
1章13節「私の乳房の間で」。
8章1節「私の母の乳房」。
8章10節「私の乳房は塔のよう」。
雅歌の初めと、終わりに。
その雅歌の中に、全能者と同じ文字のことばが置かれている。
そのことばに、どのような思いがあるのでしょうか。
誰が、誰の乳房を語るのか。
その声を、これから追いかけていく。
没薬の束。
愛を、わかったことにせずに。




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