遠い「彼」が、近い「あなた」に 変わるとき (雅歌1:2)
更新日:8月21日
2節の冒頭。
「あの方が私に口づけしてくれたらよいのに。」(新改訳2017)
何て、情熱的。そして官能的。
果たして原文はいかに。
יִשָּׁקֵנִי מִנְּשִׁיקוֹת פִּיהוּ
(イッシャーケーニー ミンネシーコート ピーフー)
「彼が私に口づけしますように、彼の口の口づけをもって」(直訳)
逐語訳:יִשָּׁקֵנִי
(イッシャーケーニー)
「彼が 口づけする 私に」
יִ
(語頭:未完了で頭に付く形)彼が
נ־שׁ־ק
(動詞:未完了形 3人称男性単数)口づけする
־נִי
(接尾辞)私を/私に
逐語訳:מִנְּשִׁיקוֹת
(ミンネシーコート)
「口づけ(複数) 〜から/〜をもって」
מִ
(前に付く前置詞 מִן)〜から/〜をもって
נְשִׁיקוֹת
名詞「口づけ」、女性形・複数形
(動詞נ־שׁ־קと同じ語根の名詞)
逐語訳:פִּיהוּ
(ピーフー)
「口 彼の」
פִּי
名詞「口」(つながる形)
־הוּ
接尾辞「彼の」
👉語順通りに置くと 彼が‐口づけする‐私に
口づけ〔複数〕‐をもって
口‐彼の
👉「彼が私に口づけする、 彼の口の口づけをもって」
逐語で分解して初めて見えて来る、同じ語根のנ־שׁ־קからの二度鳴り。
初めは動詞の「口づけする」、二度目は、名詞「口づけ」で登場する。
日本語なら、「口づけを‐口づける」に近い。
כִּי־טוֹבִים דֹּדֶיךָ מִיָּיִן
(キー・トーヴィーム ドーデーハー ミッヤーイン)
「まことに、良い、あなたの愛は、ぶどう酒よりも」(語順通り)
逐語訳:כִּי
(キー)
接続詞「まことに/なぜなら」
逐語訳:טוֹבִים
(トーヴィーム)
形容詞「良い(複数)」 語根ט־ו־ב(良い)
語尾־ים男性・複数の印
👉あなたの愛(דֹּדֶיךָ)が複数だから、複数形になっている。
ここで確認!!!
あの方は一人、その愛が複数ということ!!
逐語訳:דֹּדֶיךָ
(ドーデーハー)
「愛(複数)-あなたの」
語根ד־ו־ד(愛・愛のあらわれ)
דֹּדֵי
(つながる複数形)「〜の愛(複数)」
־ךָ
接尾辞「あなたの」(二人称・男性・単数)
👉抽象的な「愛そのもの」ではなく、複数形で「愛のあらわれ」で
前半の「口づけ(複数)」と響き合う、数えられる具体的な愛。
👉この節で初めて接尾辞־ךָ 「あなたの」になる。
願いの相手が、初めて二人称で呼ばれる。
逐語訳:מִיָּיִן
(ミッヤーイン)
「ぶどう酒-より」
מִ
(前に付く前置詞 מִן)ここでは比較「〜より」
יַיִן
名詞「ぶどう酒」
👉前置詞מִן:
前半では手段・部分として(口づけ「をもって/から」)
ここでは比較。
同じמִןが2節の中で別の顔で二度登場。
実は、同じ姿なのに別の動きをしている。
前半は手段、後半は比較。
二度の登場でも、顏が違う。
逐語でほどいて見えてきたものがある。
それは「呼び名」の動き。
冒頭でיִשָּׁקֵנִי
(イッシャケーニー)
「彼が」=三人称
次にפִּיהוּ
(ピーフー)
「彼の口」
そして、דֹּדֶיךָ
(ドーデーハー)
「あなたの」 ここで初めて二人称。
彼→彼の口→あなた 呼び名が替わっていく。
替えているのは、誰か。
彼が動いているのではない。
あなたが動いているのでもない。
本文の中で口を動かしているのは、 ただ一人。
語ってる「私」
私の口が、同じ相手を、「彼」と呼び、「彼の口」と呼び、
そして「あなた」と呼びかける。
替えているのは、私の口。
「私」は、יִשָּׁקֵנִיの接尾辞で一度きり。
位置を変えない。 ただ一つ。
けれど、その動かない私の口が、相手の呼び名を次々に替えて語り出す。
相手は、私に呼ばれて「彼」「彼の口」「あなた」と、姿を替えて現れる。
私の口が「彼」という遠い三人称で願い始め、願っているうちに、
相手を「あなた」と呼び始める。
遠い「彼」が、近い「あなた」になる。
願いが、相手を引き寄せている。
あの方が誰なのか。
キリストともソロモンとも、
本文はまだ言わない。
名前を一つも足さないのに、物語は動き始めている。
遠い彼が、近いあなたになる。
呼び名の動きだけが、もう何かを語り始めるように。
だからこそ、
今回は、まず、
代名詞の動きだけを追いかけてみようと思う。





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