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遠い「彼」が、近い「あなた」に   変わるとき   (雅歌1:2)

8月16日
読了時間: 3分

更新日:8月21日


2節の冒頭。


「あの方が私に口づけしてくれたらよいのに。」(新改訳2017)


何て、情熱的。そして官能的。


果たして原文はいかに。


  

יִשָּׁקֵנִי מִנְּשִׁיקוֹת פִּיהוּ

(イッシャーケーニー ミンネシーコート ピーフー)

    「彼が私に口づけしますように、彼の口の口づけをもって」(直訳)


    逐語訳:יִשָּׁקֵנִי

        (イッシャーケーニー)

        「彼が 口づけする 私に」


           יִ     

          (語頭:未完了で頭に付く形)彼が  


          נ־שׁ־ק     

          (動詞:未完了形 3人称男性単数)口づけする


          ־נִי      

          (接尾辞)私を/私に



     逐語訳:מִנְּשִׁיקוֹת

     (ミンネシーコート)

         「口づけ(複数) 〜から/〜をもって」


         מִ           

     (前に付く前置詞 מִן)〜から/〜をもって


         נְשִׁיקוֹת      

           名詞「口づけ」、女性形・複数形

           (動詞נ־שׁ־קと同じ語根の名詞)


     逐語訳:פִּיהוּ

         (ピーフー)

         「口 彼の」


           פִּי          

           名詞「口」(つながる形)


־הוּ           

           接尾辞「彼の」


  👉語順通りに置くと 彼が‐口づけする‐私に


            口づけ〔複数〕‐をもって


            口‐彼の


      👉「彼が私に口づけする、 彼の口の口づけをもって」


逐語で分解して初めて見えて来る、同じ語根のנ־שׁ־קからの二度鳴り。

初めは動詞の「口づけする」、二度目は、名詞「口づけ」で登場する。

日本語なら、「口づけを‐口づける」に近い。



כִּי־טוֹבִים דֹּדֶיךָ מִיָּיִן

(キー・トーヴィーム ドーデーハー ミッヤーイン)

    「まことに、良い、あなたの愛は、ぶどう酒よりも」(語順通り)

 

       逐語訳:כִּי

          (キー)

          接続詞「まことに/なぜなら」 


       逐語訳:טוֹבִים

     (トーヴィーム)

          形容詞「良い(複数)」 語根ט־ו־ב(良い)

          語尾־ים男性・複数の印


         👉あなたの愛(דֹּדֶיךָ)が複数だから、複数形になっている。

          ここで確認!!!

          あの方は一人、その愛が複数ということ!!


       逐語訳:דֹּדֶיךָ

          (ドーデーハー)

          「愛(複数)-あなたの」

          語根ד־ו־ד(愛・愛のあらわれ)


 דֹּדֵי           

           (つながる複数形)「〜の愛(複数)」


          ־ךָ           

           接尾辞「あなたの」(二人称・男性・単数)


        👉抽象的な「愛そのもの」ではなく、複数形で「愛のあらわれ」で

         前半の「口づけ(複数)」と響き合う、数えられる具体的な愛。


        👉この節で初めて接尾辞־ךָ 「あなたの」になる。

          願いの相手が、初めて二人称で呼ばれる。


       逐語訳:מִיָּיִן

           (ミッヤーイン)

           「ぶどう酒-より」


           מִ            

            (前に付く前置詞 מִן)ここでは比較「〜より」


            יַיִן            

            名詞「ぶどう酒」


          👉前置詞מִן:

             前半では手段・部分として(口づけ「をもって/から」)

             ここでは比較。

             同じמִןが2節の中で別の顔で二度登場。

            実は、同じ姿なのに別の動きをしている。

            前半は手段、後半は比較。

            二度の登場でも、顏が違う。

             


逐語でほどいて見えてきたものがある。


それは「呼び名」の動き。


冒頭でיִשָּׁקֵנִי

   (イッシャケーニー)

   「彼が」=三人称


次にפִּיהוּ

   (ピーフー)

   「彼の口」


そして、דֹּדֶיךָ

   (ドーデーハー)

   「あなたの」 ここで初めて二人称。


彼→彼の口→あなた  呼び名が替わっていく。


替えているのは、誰か。


彼が動いているのではない。


あなたが動いているのでもない。


本文の中で口を動かしているのは、 ただ一人。


語ってる「私」


私の口が、同じ相手を、「彼」と呼び、「彼の口」と呼び、


そして「あなた」と呼びかける。


替えているのは、私の口。


「私」は、יִשָּׁקֵנִיの接尾辞で一度きり。


位置を変えない。 ただ一つ。


けれど、その動かない私の口が、相手の呼び名を次々に替えて語り出す。


相手は、私に呼ばれて「彼」「彼の口」「あなた」と、姿を替えて現れる。


私の口が「彼」という遠い三人称で願い始め、願っているうちに、


相手を「あなた」と呼び始める。


遠い「彼」が、近い「あなた」になる。


願いが、相手を引き寄せている。


あの方が誰なのか。


キリストともソロモンとも、


本文はまだ言わない。


名前を一つも足さないのに、物語は動き始めている。


遠い彼が、近いあなたになる。


呼び名の動きだけが、もう何かを語り始めるように。


だからこそ、


今回は、まず、


代名詞の動きだけを追いかけてみようと思う。


木々の奥から光が射し込む、朝の森の風景
遠い『彼』が、近い『あなた』になる森。


 






 
 
 

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